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■ そして誰もいなくなった・・

-- 満ち潮が近付いてくる中、マングローブの森に近い柔らかい干潟の上では、まだミナミコメツキガニがぞろぞろと移動をくり返していた。これから潮が満ちてここらが海になる時、いったいこのカニたちはどうするのだろう。そう思って最後まで見届けることにしていたが、ふと気が付くと全体の数が減ってきている。あれ?もっといたはずなのだが・・。海はまだ遠く向こうなので油断していたが、もうすでにミナミコメツキガニの帰宅は始まっているようだ。何がなんだかわからないうちに全ていなくなってしまう怖れもあるので、ある団体にロックオンしてその行動をヒルギの陰から見守ることにした。数えるほどになった小さな集団は水場の近くをウロウロとしていたが、あっという間に隠れるあの早業でさらに数が減ってゆき、いつしか誰もいなくなった。これまでは隠れては出てきて隠れては出てきてとくり返していたのが、今回は土の中に隠れたままいくら待っても出てこない。これはもしや?と思い、ゴメンねーと言いながら隠れた場所を掘ってみると・・、いない。え、いない?。そんなはずはない。消えるなんて絶対おかしい。本物のイリュージョンじゃあるまいし・・、え?まさか本物のイリュージョン?。そんなことを考えつつさらに深く掘りすすむと・・、いた。いました。足をたたんで丸く小さくなって地面の奥深くに隠れていました。その深さは指から手首までの約20cm。あのドリルのような回転で、そんなにも深く潜るんだとしばし感心。掘り起こしてしまった1匹を、また穴の奥にもどして泥をかぶせてあげました。そうして全てのミナミコメツキガニが地表から姿を消し、マングローブの森は寂しいほどの静けさにつつまれるのでした。→つづき


このページは、奄美の写真家「別府亮」の撮影日記的な奄美の記録→『奄美/365』の1ページです。
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