奄美/365
 もう5年前になった話 2010/1/13

--今日みたいにアラレちらつく寒い日は、よく湯湾岳へと車を走らせた。空気がさらに冷え込む夜を待って、奄美で最も高い場所へ向かう。子供の頃に理科で「高いところへ登るにつれ気温は低くなる」と習ったから。地上でこんなに寒いのなら、奄美一高い湯湾岳の山頂ではもしかして雪が降ってるのじゃないかと淡い期待を抱く。そうやって何年か、冬の寒い夜に湯湾岳へと通い続けた。そして、2005年3月5日にやっと雪とめぐり逢えた。

--ふとこんなことを思い出したのは、昨日たまたま乗ったタクシーでそんな話題になったから。鹿児島中央駅へ向かいながら「明日はここも雪になるらしいよ」と運転手さん。鹿児島で2cm積もるって話だから北の方はもっと降るかもしれませんね、とも。「いやあ僕たちこれから南へ向かうんですよ。奄美なんです」と話すと、「あげっあんたなんか島ね。どこよ?」と口調が変わった。たまたま運転手さんも奄美だった。奄美には雪が降らないから・・という話題の中で、「そういえば何年か前に降ったっちよ」と運転手さんが記憶をたどる。「しかし寒い夜にあの人なんで湯湾岳なんか登ったのかい」と続いたが、駅はすぐそこだったので説明する時間もなく、「そうですよねぇ」と相づちを打って僕らはタクシーをおりた。「きっとその人、雪が見たくて何度も通ったんでしょうね」と小さく付け加えるぐらいにして。

--今日の鹿児島は2cmを余裕で超える雪になったようだ。昨日見た場所が真っ白になってテレビ画面に映し出されていた。奄美も今日は寒い。時々パラパラとアラレの音がする。こんな日は「もしかして」と空を見上げたりするけれど、奄美に降る雪を一度見てみたかっただけの僕は、あの日以来、寒い夜の湯湾岳を目指すつもりはない。もともと寒いのは苦手でもあるのだから、胸にあの日の記憶がまだ残るうちは家でジッとしていることだろう。果たして今夜の湯湾岳はどうだろう。降るだろうか降らないだろうか。そんなことはやっぱり登ってみなくちゃわからないよねと空を見つめ、うー寒いと窓を閉めた。

>>2005年3月5日の奄美

EOS 10D + EF28-70mm F2.8L

365

このページは、奄美の写真家「別府亮」の撮影日記的な奄美の記録→『奄美/365』の1ページです。
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